iPhoneをレンズ交換式カメラにグレードアップするShiftCamが面白い

写真・文 / 写真家 塩澤一洋(shiology.org) 

 

iPhoneがレンズ交換式カメラになる「ShiftCam」。1ヶ月ほど使ってみたところ、これは相当面白い。iPhoneの撮影領域が広がり、映画のような光の演出も簡単。iPhoneが本格的なカメラへグレードアップするのだ。本記事ではポートレイト撮影を中心として「ShiftCam」の魅力をお伝えしたい。

今回試用したのは「ShiftCam」のうち2つの製品。一つはiPhoneケース一体型の外付けレンズ「iPhone 11 Pro Max 5-in-1 トラベルセット」(以下「トラベルセット」と呼ぶ)。iPhoneの機動性を生かしたスマートなボディに、個性的なレンズが4つ組み込まれている。「4倍望遠*」、「180°魚眼」、「10倍マクロ」、そして「20倍マクロ*」だ(*iPhoneの2倍ズームレンズとの合計倍率)。 さらに偏光フィルタ(PLフィルタ)まで備わって「5-in-1」。これひとつでiPhoneカメラの表現力5倍!?


もう一つは超広角レンズから望遠レンズまで充実した「プロレンズ」ラインナップの中から「プロ60mm 2x望遠レンズ」(以下「プロ60mm」と呼ぶ)。4群5枚の単焦点レンズだ。「トラベルセット」に装着して使うアタッチメントタイプなのでワンアクションで着脱でき、レンズキャップもマグネット式だから即写性が高い。作りがしっかりしていて見るからに光学性能が高そう。きっといい絵が撮れるに違いない。

 


2つの製品を持って、まずは年初の神社に向かった。60mmといえばポートレイト撮影に最適だから、巫女さんを撮影するのだ。もちろん撮影OKをもらってある。

その「プロ60mm」レンズを装着して撮影したのが冒頭の写真。逆光バリバリで太陽の強い光が左上からレンズに直接注ぎ込む、レンズにとっては過酷な状況ながら、このとおり。被写体をくっきりと浮かび上がらせてくれた。iPhoneでこれが撮れるなら大満足。この後の撮影にも期待が高まる。本格的なレンズをiPhoneでダイレクトに使えるのがうれしい。


なお今回掲載した写真はすべてiPhone 11 Pro Maxで撮影したまま、無補正、無修正。撮影アプリはiPhone標準のカメラアプリ。ライティングやレフ板といった撮影用の小道具さえ一切使っていない。またモデルさんもプロではない。純粋にiPhoneとShiftCamオンリーで、普通に撮影している。ShiftCamの実力をとくとご覧いただきたい。 

ShiftCam プロ60mm

さあ境内で撮影を続けよう。他愛もない話をしながらにっこり写真をいただき。レンズがついているとはいえ、見た目は紛れもないiPhone。相手への威圧感がゼロだからナチュラルな表情を引き出せる。

ちなみに同じ場所でiPhone標準カメラ/レンズで撮影するとこんな感じ。うん、いつものiPhoneの見慣れた絵ですね。

iPhone 11 Pro Max 標準カメラ



ちょっと角度を変えて「プロ60mm」を横位置でもう1枚。


ShiftCam プロ60mm

面白いのは「レンズらしさ」が描写に表れるところ。これがいまやかなりレアモノなのだ。

映画やアニメで陽光がキラリ〜〜ンと射し込んで、幾重にも連なる光の球が描かれた映像をご覧になったことがあるだろう。あれはレンズの鏡筒内で反射した光が写り込んだもので、「ゴースト」と呼ばれる。最近の一般的なレンズはコーティングによってゴーストがほとんど出ない。ちょっと寂しいのだ。

試しにゴーストが出そうな角度に「プロ60mm」を向けてみたらこのとおり。綺麗なキラキラが現れた。これはいい!! 気に入った。その角度のまま、レンズを弓に向けたら、ちょうど矢が「成就」に命中した。めでたい!! 

ShiftCam プロ60mm

さて次は成人の日。巫女さんの妹さんが成人式を迎えるので、「ShiftCam」を持ってお祝いに参じた。

妹さんが着付けをしている間に巫女さんを撮影。普段着姿の彼女の視線にドキッ。


ShiftCam プロ60mm

「プロ60mm」で撮影したものとiPhone 11 Pro Maxのカメラの1倍、2倍で撮影したものを比べていただきたい。「プロ60mm」が「プロ」を名乗る理由が伝わるだろうか。

iPhone標準カメラ1倍(上)・2倍(下)

そういえば、「トラベルキット」自体の描写にも言及しておこう。別の日に食べたうな丼である。入店して7席程度の狭いカウンターに座り、ランチのうな丼を注文。

ほどなくして湯気が立ち昇る熱々のうな丼が供された。たれのツヤと少しの焦げ目が食欲をそそる。いただきます!! じゃなくてその前に撮影、撮影。

iPhone 11 Pro Max標準カメラ(上)、ShiftCam 180°魚眼(下)

まずはiPhoneの標準カメラ(1倍)で全体を押さえた後、レトロ昭和な雰囲気が残る狭い店内を「180°魚眼」で撮影。続いて「ShiftCam」の「4倍望遠」でアップを、 「10倍マクロ」でさらにドアップを撮影。炭火で焼く香ばしい香りがぷんぷん漂って、お腹も鳴る。こんどは本当にいただきます!!

ShiftCam 4倍望遠(上)、10倍マクロ(下)

美味しい話をしているうちに、妹さんの着付けが終わったようだ。「プロ60mm」全開で撮影しよう。


ShiftCam プロ60mm

美しい!! 妹さんも着物も美しく、それをしっかり写せる「プロ60mm」が素晴らしい。

iPhone 11 Pro Maxに「プロ60mm」を付けて彼女に向け、単純にシャッターボタンを押しただけ。普通のiPhoneの撮り方そのままに、ポートレイトレンズの旨味を味わえる。念のため、iPhone 11 Pro Maxの標準カメラでも撮影しておいた。もう比較の必要はないかもしれませんね。


ShiftCam プロ60mm

 

iPhone 標準カメラ(1倍)


「カメラはiPhoneで十分」という意見を耳にするようになった。わかります。iPhoneは本当によく写るカメラ。これさえあれば単体のカメラは要らないなって、感じるのも無理はない。個性的なカメラを使い分けている私自身も「この被写体はiPhoneで撮りたい!!」って考える時もあるくらい、並居る名機と互角に競える素質を備えている。

薄くて軽くていつでも持っているから即座に写せる。ここぞというチャンスをモノにできる即写性は、大型カメラにはない持ち味だ。被写界深度が深いから、接写にも強い。近寄って撮影したときにも、手前から奥までピントが合う範囲が深いのだ。

それでもなお多くの人がミラーレスカメラを買い求める理由はレンズにある。レンズを交換してさまざまな描写を得る面白さは格別だ。撮影意図や欲しい効果に合わせて、各種のレンズを使い分けると、表現の幅が広がって、ゲイジツテキな写真が撮れてしまう。インスタ映えにも磨きがかかる。

そんな現代だからこそ、 「カメラはiPhoneで十分だから他に買う予定はないけど、レンズ交換して楽しみたい」というニーズを「ShiftCam」がまとめて引き受けてくれるのだ。

この記事ではポートレイトに特化して「ShiftCam」の魅力をお伝えしたが、そのほかにも多様な楽しみ方ができる。それが「レンズ交換式カメラ」の醍醐味だ。すでにリリースされているこばやしかをるさん、三井公一さん、藤井智弘さんの記事も、ぜひご覧いただきたい。ShiftCamの多彩な面白さを感じていただけると思う。


最後に「プロ60mm」を横位置で1枚。成人、おめでとうございます!!


ShiftCam プロ60mm 

 


塩澤一洋(しおざわかずひろ)
ブライダルから料理、風景、そしてポートレイトまで、あらゆるキラキラを写す写真家。Apple社のSteve Jobs氏を数回撮影した写真は日米韓で雑誌の表紙、記事、書籍やwebサイトで多数掲載。毎年3月のCP+で行ったトークショウはYouTubeで公開されている。DVD『写真をカクシンしよう』好評発売中。成蹊大学法学部教授(民法・著作権法)。

ブログ: shiology.org
Instagram: shiology
Twitter: shiology
Facebook: shiozawa